マイナスイオン&オゾンによる「空気清浄」の実態

2023年12月26日

消費者庁は12月21日から22日にかけて、マイナスイオンとオゾンを発生させて除菌や脱臭効果をうたった空気清浄機の供給元である共立電器産業株式会社(東京都大田区)、および株式会社フォレストウェル(横浜市鶴見区)の2社に対し、景品表示法違反(優良誤認)による措置命令を発出しました。

問題となった商品は共立電器産業社の「空気活性清浄機サリール」、およびフォレストウェル社の「j.air(ジェイエアー)」で、それぞれ以下の効果をうたっていました。

【虚偽表示の内容】
(空気活性清浄機リサール)
 〇安眠・鎮静・血圧降下
 〇血液を弱アルカリ性に
 〇毛細血管を拡張して新陳代謝を促進
 〇浮遊菌や各種雑菌を短時間で除菌
 〇強力な脱臭効果

(J.air)
 〇空気中の塵や菌、ニオイ物質を積極的に捉える活動的な空気を生成
 〇除菌・除塵・脱臭性能を高次元で発揮

いずれも室内で使用した場合に得られる効果のように表示していますが、実際には密閉された試験空間におけるデータを根拠としており、わたしたち消費者が考える「お部屋の空気をきれいにする」とは異なります。

【消費者を欺くテクニック】
オゾン発生器やマイナスイオン発生器に関する行政処分はこれまで幾度も繰り返されており、いずれの場合も過大な除菌効果や消臭効果を示すため、以下のような姑息な表示が散見されますが、これらは悪質業者が頻繁に使う手口ですので注意が必要です。

1)試験データ(グラフ)
公的機関等で取得した試験データが掲載されている場合、実際には試験ボックスなど限られた空間において実施されたデータであるにも関わらず、あたかも室内においてグラフにあるような効果が得られると誤認させる恐れがあります。

フォレストウェル社(j.air)の場合、脱臭試験はデシケーター(約109L)、除塵試験はボックス(32cm×72cm×27㎝)内、除菌試験は25m3(約6畳)と試験空間の条件が明示されているものの、後述するように自然減衰との比較や密閉空間におけるデータを実際の使用環境に当てはめるのは自然とは言えません。
➡ 試験空間のサイズ、試験方法や試験条件が明記されていない場合は注意

― 空気活性清浄機サリールの除菌、脱臭等の試験データ(試験条件が不明) ―


2)自然減衰との比較データ
試験空間内のデータに関しては、何もしない状態の「自然減衰」と、機器作動時における測定データを比較することで、さも機器の効果として除菌や集塵がなされていると表現するケースが見受けられます。

しかしながら、密閉された試験空間の場合、空気の出入りはもちろん無く、また強い対流も起こりにくいため空間内の菌や塵などの物質は浮遊し続けます。

これに対し、イオン式(無風タイプ)であれファン式であれ自ら浮遊物質を引き寄せる方式であれば試験空間中の菌や塵などの物質が減っていくのは当たり前です。

さらに、実際の居住空間においては人の出入りや換気などの影響で、特別な機器を置かずとも室内の菌や塵は流入もしくは流出すると考えられますので、密閉された試験空間における自然減衰との比較は意味がありません。
➡自然減衰との比較データは実用上疑問

― j.air(ジェイエアー)の試験空間における自然減衰との比較データ ―



3)「医療用物質生成器」
《経済産業省が認定した医療用物質生成器》などと表記し、あたかもウイルス除去などを目的とした医療機器として、経済産業省が認定したと思わせるのも悪質業者の常套手段です。

「医療用物質生成器」の正体は、電気製品を販売するにあたって必要なPSEマークの取得にからみ、届出区分の一つである「医療用物質生成器」を(届出者が)選択するだけの話であり、何ら認可や認証を受けるという類のものではありません。

PSEマークの取得は、電安法に定める定格電圧(100V 以上 300V 以下)や定格周波数(50Hz 又は 60Hz)を満たしているだけでよく、健康増進の効果・効能を宣言する製品であれば「特定電気用品以外の電気用品(341品目)」のうち「No.337 医療用物質生成器」の区分に届け出るだけで済みます。
※「マイナスイオン、オゾン、電解水等を生成するものを含む」という扱い

つまり電気製品であれば当たり前に届け出るもので、そもそも経済産業省がウイルス除去や空気清浄性能にお墨付きを与えるような認定を行う事もありません。

➡「医療用物質生成器」はただの届出区分。認定製品でも何でもない。

 ― 空気活性清浄機サリールの「医療用物質生成器」説明文(認定はウソ) ―


【放電式空気清浄機の原理】
今回、行政処分を受けた2社の製品もそうですが、一般にマイナスイオンやオゾンの生成をうたった製品の多くは、「放電式」と呼ばれる空気清浄機やオゾン発生器となっています。

この「放電式」の原理は、機器内部において7,000~8,000Vの高電圧によるコロナ放電を生じさせ、その際に飛び出した電子が機器から外部へ放出され、空気中の酸素に衝突する事でオゾンを生成するものです。

その際、飛び出した電子が空気中の物質に結合した状態が生まれますが、その状態は電気的にマイナス(-)の性質を持ち、この状態がいわゆる「マイナスイオン」と呼ばれるため、こうした機器はマイナスイオン発生器と呼称される事もあります。

さらに、放出された電子や、電子が結合した物質(マイナスに帯電)が機器内部のプラス極へ戻ってくるよう設計する事で、空気中の電子が浮遊している菌や塵といった物質を連れて来る役割を担います。

結果として集塵機としての役割を果たすことになるため、「空気清浄機」としての機能を持つことになります。

また、機器から飛び出した電子により生成されるオゾンには強力な酸化作用があるため、結果として悪臭物質(すべてではない)の酸化分解により脱臭効果が得られることもあります。

つまり、コロナ放電を起こすための電極の数や材質、形状、さらに空気中への電子の放出パターンに違いは見られるものの、マイナスイオン発生器やオゾン発生器、またマイナスイオン式空気清浄機はすべて「放電式」と呼ばれる同一の原理を用いた機器といえます。

マイナスイオンについては後述するように効果がオカルトの領域を出ておらず、なんとなく良さそうというイメージ先行型の物質であるのに対し、オゾンについては一定条件下においては脱臭効果が認められています。

また、上述の原理に基づき一定の集塵効果もみられるため、空気清浄機能も無いわけではありません。

問題なのは、こうした原理を拡大解釈、もしくは誇大表示することで消費者に過大な効果を期待させてしまう点です。

中には医療機関や施設向けの高額商品も流通していますが、こうした機器のほとんどが、平板電極(針電極の場合もあり)と高電圧トランスが主体の単純な構造であるため、販売価格が数十万円から数百万円になるというのは非常に疑問です。

販売業者が示すデータや宣伝文句を鵜呑みにせず、原理や効果について十分理解できる製品を購入することが大切です。



【マイナスイオン神話】
数十年にわたってマイナスイオン系の商品が販売され続けていますが、未だに空間除菌に関する明確な効果を示したデータが存在せず、あくまで実験室内での一部の結果をもって、日常生活での使用に効果があると宣伝するケースが後を絶ちません。

マイナスイオンそのものが、「滝の近くではマイナスイオンが多い」「副交感神経を刺激してリラックス効果がある」などのイメージがあるため、よくわからないけど良いものらしい、という印象が多数を占めるのではないでしょうか。

しかし、マイナスイオンがいったい何を指しているのか、明確に理解している方は非常に少ないと思われます。

問題はこの「マイナスイオンが何を指しているか」であり、通常は酸素イオン(O)を指すと思われますが、これ自体に殺菌作用はありません(学術論文も見当たりません)。

ただし、コロナ放電時に同時発生するオゾン(O3)には強力な酸化作用があるため、これをもって殺菌(除菌)能力をうたっている可能性はあります。

また大手家電メーカなどでは、コロナ放電の際に放電電極付近に水分を与える等することで、空気中の水分子を分解してOHラジカルを生成し、OHラジカルの高反応成分(タンパク質変性作用)により殺菌できるとした、プラズマクラスターやナノイー・ナノイーX、ストリーマと呼称された成分の効果をうたう商品が販売されています。

一番の問題は、コロナ放電によりマイナスイオンやオゾン、OHラジカル等を空気中に放出する商品に関して、開発・販売業者が空間除菌の論拠とする原理・データ類の取得方法および提示方法に何ら基準がなく、統一された判断基準が存在しないことです。

除菌原理については、理論や実験データなどを見る限り概ね理解できますが、問題なのは除菌作用が及ぶ範囲や条件について明確にされていない、もしくは実際の使用環境における実証データが見当たらない点には留意する必要があります。
※二酸化塩素を放出するタイプなど、他の空間除菌をうたう商品についても同様











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