素人を欺く専門家 背景と対策

人を騙して財産を不当に奪う者がいる。

こうした行為の主体は詐欺犯や悪徳業者と呼ばれ、彼らはその行為が犯罪もしくは法のグレーゾーンと認識した上で、金品獲得を唯一の目的として活動している。ほとんど表に出ることなく、人目に付かない存在だ。

これに対し、その行為自体は違法とは言い難いが、相手の不利益を顧みずに不当な利益を得る「詐欺まがいの行為」というものがある。

 

高い専門知識とスキルを兼ね備えた専門家が利益至上主義に陥り、こうした行為に及ぶ例が増えている。
彼ら専門家は、その社会的信用を逆手に取り、相手が不要な対価を払う事実を認識しながら、自らの利益拡大のみを目的に、商取引・商契約を行うのである。

 

「詐欺・悪質商法」と「詐欺まがいの行為」

 

詐欺犯や悪徳業者は、はじめから金品などの財産を奪う目的で接触してくる。嘘をつき、ニセの情報を与え、正常な判断力を奪った上で、不安感や恐怖感を与えるなど、あの手この手で金品を騙し取ろうとする。ここには明らかな嘘があり、法律にも抵触する重大な犯罪である。

 

この詐欺や悪質商法と、詐欺まがいの行為では何が違うのであろうか。

法を犯す自覚を持った詐欺犯などに対し、詐欺まがいの行為に及ぶ者は、法律には抵触しないよう十分に注意した上で、自らの利益となる方向へ誘導しながら、善意の第三者を装いつつ接触してくる点である。

一見、合法であるように見えるが、重要な情報は操作され、十分な説明もなされずに、実際には財産の損失が拡大するものが多く、倫理的には大きな問題がある。

 

この詐欺まがいの行為は、表舞台で堂々と行われており、私たちの身近な保険・金融の販売現場でも行われている。

例えば生前贈与対策としての高額な保険契約や、投資信託および保険商品の回転売買、押し売り販売等が代表的なものである。

今や私たちは詐欺や悪質商法のみならず、身近な専門家に対しても注意しなければならないのである。

 

専門家に対しても警戒が必要

 

この詐欺まがいの行為を行う主体が、保険会社や証券会社、銀行といった「信頼・信用」重視の企業であることが、この問題の深刻な点である。

中でも日本郵便による生命保険の押し売り販売は、社会に大きな衝撃を与えた。

その手法は、ターゲットを高齢者に絞り、時には自宅へ複数名で押しかけ、相続話法といったトークを駆使して、顧客に不利な商品契約を迫るという悪質なものであった。

虚偽の説明で事実誤認させ、重要事項の説明を意図的に省き、金を巻き上げるという特殊詐欺顔負けの悪質さで、一度契約してしまえば、今度は投資信託の回転売買さながら、保険商品の短期契約を繰り返し、顧客の資産を食いつぶす非道ぶりである。

 

専門家妄信の罠

 

見知らぬ怪しげな業者であれば、誰もが警戒心を抱き、その内容について十分に吟味するはずである。

巷に氾濫する商品広告などでは、「公的機関」や「〇〇大学○○教授」の名前を使った「実証データ」と称するものを示したり、「有名人の〇〇さんも使用」、「アメリカNASA」でも採用、など「なんか凄そう」なイメージを醸したものが多く、つい興味を抱くこともあるが、100%信用する人は少ないであろう。

しかしその道のプロである「専門家」の話すことは、盲目的に信じてしまう事が多い。

素人である私たち一般人にとって、専門家は信頼すべき存在であり、その説明内容については深く考えずに信用してしまうのである。

まして名の知れた大手銀行や証券会社、保険会社、地域に密着した親近感を覚える郵便局の職員が相手であれば、「保険や金融商品という難しい内容を易しく教えてくれ、こちらの利益を考えた最適な商品を提案・提供してくれる」と信じてしまう。

シェアハウス問題で被害に遭った個人投資家は、まさか審査する立場のスルガ銀行が「不正を主導、偽装工作までして融資を行った」とは夢にも思わなかっただろう。

 

背任に及ぶ背景とは

 

本来の専門家とは、素人である一般人を助けるための専門的な技術や知識を有する人たちで、高い理念と知性を持ち合わせた、尊敬されるべき存在でなければならない。

今回指摘した保険会社、金融機関以外にも、病気を治す医師、弱者を守る弁護士、土地や建物を扱う宅建士や建築士をはじめ、多くの専門家がいて、それぞれ自身の職務に高いプライドと技術を持って臨んでいる。

その専門家がなぜ、詐欺まがいの行為を行うのだろうか。

 

専門家による裏切り行為は何も保険・金融業界だけの話ではなく、姉歯事件に代表される耐震設計偽装やマンションの欠陥問題、医師による診療報酬不正請求、弁護士による示談金や着手金の着服、と枚挙に暇がない。

当初より金品を騙し取る目的の詐欺犯や悪質商法とは異なり、専門家が詐欺まがいの行為を行う最大の理由は、「自己の利益拡大」に他ならない。

はじめから自己の利益拡大を目的化しているケースと、自己保身のために利益拡大を図るケースがあるが、背景にあるのは「行き過ぎた資本主義」「人口減による経済衰退」といった経済の先行き不透明感に起因する「充足感の低さ」が専門家の心をも支配し、拝金主義へと向かわせているのではないか。

 

金儲けに走る専門家

 

行き過ぎた資本主義の産物である格差の拡大によって、資産ある者は資産拡大に固執し、資産なき者は生活基盤を脅かされるまで経済的に追い詰められているのが現状である。
政権が繰り出す経済政策の効果について論じるまでもなく、世間一般では「資本主義は成熟期を過ぎて停滞」、「少子高齢化による経済損失は多大」といった心理も影響し、将来への不安は増すばかりで、個人・企業をにおいては貯蓄や内部留保に勤しむという構図が出来上がってしまった。

こうなると、本来は高いプライドと職業理念を持つ専門家であっても、資産は一円でも多い方が良いと考え、個人・法人を問わずその特権を利用することで、容易に資産拡大を図り、自己の利益拡大に腐心していくのではないだろうか。

 

上述した保険会社や証券会社、銀行といった金融機関が、詐欺まがいの行為に手を染める背景には、日銀のマイナス金利政策による銀行経営の圧迫や、保険業の運用益低下による業績悪化の埋め合わせ、といった側面もあるだろうが、「金融のプロとして、プライドはないのか」と問いたい。

経済的に困窮している等、立場の弱い専門家の中には、自己保身のため止む無く背信行為を働くケースがあるかもしれないが、たとえどのような理由があるにせよ、専門家が素人を騙すことは決して許されない。

 

企業も不正・偽装のオンパレード

 

このような問題は、企業の不正・偽装問題に通ずるものがある。
外部からは確認しようがない品質、検査結果等に関して、要求仕様を満たさない製品であっても、データを改ざんして出荷してしまうのは、やはり自己の利益拡大、もしくは自己保身が理由であろう。

 

企業の至上目的が株主への高配当や、内部留保拡大といった利益至上主義に収れんされた結果、多くはコストダウンや納期厳守の名のもとに不正が蔓延し、スズキのブレーキ検査改ざんを筆頭に自動車メーカ各社のデータ改ざんや、東レハイブリッドコードにおける検査データ改ざん、東芝の長期に渡る不正会計、神戸製鋼の品質偽装、旭化成建材の杭工事データー偽装、東洋ゴムの免震ゴム性能偽装、血清療法研究所の不正・・・と軒並み自社の利益拡大、自己保身に勤しむ企業が続出している。
経営悪化から逃れるため、苦し紛れに補助金詐取を図るケースもあり、雪印食品の牛肉偽装はその典型例である。

 

騙されないために

 

ここで資本主義の行く末を論じ、また専門家に対してモラルを説いたところで、状況の好転は望めず、残念ながら今後も専門家による詐欺まがいの行為は後を絶たないであろう。

では私たち素人が専門家と対峙したとき、不利益を被らず、本来あるべき商品やサービスの提供を受けるにはどうしたらいいのか。

 

主に二つの対策が考えられる。

 

一つ目は、その専門分野に精通した第三者に助言を求めることである。

たとえば住宅関連であればホームインスペクター(住宅診断士)を利用する、保険や金融商品に関してはFP(ファイナンシャルプランナー)に相談する、などである。

 

ただし注意しなくてはならないのは、助言を求める相手が、業界内の特定の企業と紐づいていないか、という点である。

無料の住宅診断が、実は住宅販売会社の社員によって行われていたり、独立系のFPと謳っていても、実は特定の証券会社や保険会社の代理店を兼ねていて、その特定企業の商品へ誘導される、という事例もある。

 

二つ目は専門知識を習得し、自身の頭で考え、判断できるよう準備しておくことである。

当然、経験値は専門家に劣るであろうし、専門家レベルまで知識レベルを上げる事は困難といえるが、初歩的な知識はインターネット上の情報(玉石混合ではあるが)や書籍によって得る事ができる。

大まかなメカニズムを知っておくだけで、勧められた内容や専門家に対する真贋を見極める手助けにはなる。

 

中には「そうした知識がないのだから専門家にお願いするのであり、自身で勉強するのは面倒くさいし、調べている時間がない」等の意見もあろう。

しかし自分の大切な財産を守るためには、専門家への丸投げではなく、自身の努力も必要な時代になったと認識すべきである。

ある程度の知識を身につければ、第三者からのアドバイスや、専門家の説明に対して、信頼に値するか否かの見極めが付きやすくなる。

 

専門家が自己の利益でなく、私たち顧客の利益を考えてくれているかどうかを判断する材料として、以下のポイントに留意しておきたい。

 

1)選択肢が数多く示され、それぞれのメリットだけでなくデメリットも説明してくれる

 

2)お薦めの理由、根拠が自社調べ等ではなく、公的データなどエビデンスが明確である

 

3)些細な質問や疑問点に対して、こちらが納得するまで丁寧に答えてくれる

 

4)商品・サービスの購入時期など急かすことなく、こちらのペースに合わせてくれる

 

5)専門用語を乱発せず、わかりやすい言葉で説明してくれる

 

6)無理な資金計画や無責任な提案をせず、「購入しない」という選択肢も提示してくれる

 

上記項目について丁寧に対応してもらえない場合、その相手は自己利益の拡大を優先しているのでは? と冷静に距離を取り、他の専門家や商品と比べてみる必要があろう。

 

たとえ専門家であっても「100%信用できるとは限らない」という現実を認めたうえで、必要であれば第三者にチェックを依頼し、また自身による判断能力も高めておくことが、詐欺まがいの行為に対する抑止力にもなり、不本意な結果を招くリスクを最小限にできると考える。

 

 

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