個人事業主、中小事業者を狙う詐欺商法

訪問販売や電話勧誘によって売買契約をした際、よく考えてみると「高すぎる」「必要ない」というように、後になって契約を解除したいと思い直すことがある。

この場合、クーリング・オフという権利を行使すれば、契約を白紙に戻すことができる。

ただし、一個人が締結した契約に対しては認められる場合であっても、フリーランスのデザイナーやプログラマー、また個人経営の美容室や飲食店など、個人事業主および中小企業等の法人の場合には適用されないケースがある。

そして、この「クーリング・オフ適用除外」という点を利用して、不当な売買契約を行い、多額の利益を得る商法が蔓延している。

 

 

クーリング・オフ制度

 

クーリング・オフ制度は、悪質な訪問販売やしつこい電話勧誘などでの押し売り、長期に渡る不利な役務契約や連鎖販売といった悪質商法に対抗して作られた制度で、「特定商取引に関する法律」の第9条(訪問販売)や第24条(電話勧誘販売)の他、第40、48、58条に定められており、他にも「割賦販売法」など9つの法律によって規定されている。

「不意打ち的な取引」や「将来的に効果が出るか分からない長期サービス」、「お金を稼ぐためにあらかじめ金銭的負担を要する契約」等の契約について、クーリング・オフが適用される場合は、一定期間(法律により8日、10日、14日、20日)のうちに申し出ることで、無条件に契約を解除できる。

 

 

クーリング・オフが適用されないケース

 

しかし何でもかんでもクーリング・オフの権利を行使できるわけではなく、適用除外の項目もある。

通信販売やインターネットショッピングのような「購入に際し、十分な検討期間がある」販売形式が代表的なものだが、他にも金融商品、不動産、また健康食品等の指定消耗品などが適用除外にあたる。

これら適用除外とされる中でも注意が必要なのは、「契約者が営業のために若しくは営業として締結する取引(特商26条1項1号)」という項目で、要は「事業を行う上で必要」となる物品・サービスの販売や役務の提供に関する契約は適用外である、という点である。

つまり株式会社、合同会社、有限会社などの法人に限らず、個人事業主であっても、営業目的(開業準備中も含む)で契約した場合は、クーリング・オフ制度が適用されない、という事である。

個人事業主はもとより起業したばかりのベンチャー企業など、自分一人で判断して事業に必要な機器やサービスを購入する場面はよくあることだ。

その際、「個人で契約しているようなもの」という感覚もあり、クーリング・オフ対象ではないかと考えがちであるが、これは間違いである。

 

 

解約させない仕組みで営業

 

こうしたクーリング・オフ適用除外に目をつけ、不当に高額な商品・サービスの販売契約を結ぶことで、法的に問われることなく多大な利益を得る商法が存在する。

目立つのは「ホームページの制作」や「WebサイトのSEO対策」といったWeb関連におけるもので、他にもインターネット回線の高速化(光回線へ移行)、FAX電話複合機やレジスター機器の販売、顧客管理システムをはじめとしたソフトウェア等、事業を行うにあたって必要となるものや、広告効果が見込めそうに感じるものが多く、これらはすべて事業用途でありクーリング・オフ制度の適用除外となってしまう。

 

これらの商法に共通するのは、インターネット上に魅力的な広告や、電話営業に対してこちらが資料請求などの問い合わせを行うと、「とりあえず資料をお持ちする」「たまたま近くに営業マンがいる」と半ば強引に訪問してくる点である。

これは「申込者が自宅への訪問を要求したことによって販売業者が自宅を訪問した場合にはクーリング・オフの権利行使ができない(特商26条5項1号)」を利用した業者のテクニックで、「お客様に呼ばれてやってきたのだから、クーリング・オフの対象外である」と後で言い張るのに都合が良い。

そうして言葉巧みに初年度無料、もしくは2年後からは無料、といったコスト面でのアピールや、絶大な効果が期待できるとの営業トークを駆使して、早急に契約へ持ち込もうとするのである。

 

 

クレジットカード会社、リース会社との支払契約

 

さらに代金の支払契約に関しては、クレジット契約もしくはリース契約しか選択肢がなく、その場でクレジットやリース契約を結ばされてしまう、というのもこの商法の特徴である。

「お支払いはクレジットカードで決済できるので安心です」などと安心の根拠が定かでないトークを交えつつ、十分に考える時間を与えず、営業マンが持参したパソコン上で、あれよあれよという間にクレジット契約が成立してしまう。

しかも法人名義で申し込むよう誘導され、申込用紙にも法人名を記載するよう指示されているパターンが多い。

 

中には法人カードを作っていない等の理由で、個人のカードでクレジット契約を行う場合もある。

この場合、個人のカードなのでクーリング・オフが適用されるのでは?という意見もあるが、契約書に記載されている契約者名が法人(または屋号)名義となっている場合、残念ながらクーリング・オフの対象とはならない。

あくまで個人とクレジットカード会社との契約の問題であって、クーリング・オフが認められない限り、クレジット契約を解除する事はできない。

 

業者側にとっては、クレジットやリースの契約さえ済ませてしまえば、後になって契約者からクレームが入り、契約解除したいと申し込まれようが、痛くも痒くもないのである。

最悪の場合、業者が倒産、逃亡するなど連絡が取れなくなり、商品やサービスを受けられなくなったとしても、クレジット会社やリース会社への支払いは続くことになる。

 

こうした状況に対して中小企業庁や経済産業所も警鐘を鳴らしており、

「工事業者を対象とするウェブサイト運営会社と契約したが、メールで顧客を紹介された際に成約の可否に関係なく、紹介手数料(数万円)を支払う内容だった」、

「インターネットを光回線に変更したら安くなると説明され契約したが、事前の説明が不十分なまま電話番号やプロバイダ等のインターネット環境が変わってしまい、これを元に戻そうとすると違約金と工事費を追加請求された」等の実例を挙げ、十分に注意するよう呼び掛けている。

 

 

不適正な契約内容

 

上記事例のような明らかに悪質なものから、「安く感じさせて実際には多額の支払いが発生する」パターンや、「素人にはわかりにくいが不適正な料金設定」であったり、「継続的に多額の支払いが続く」など様々なパターンがある。

 

どのような商品・サービスであれ、適正な価格で提供されるのであれば、クレジット契約やリース契約は経理面におけるメリットもあり、問題とはならない。

しかし、「初年度は無料で使い放題」や「2年目以降は無料で利用可能」など一見お得に見えるものの、必ず費用が発生する期間が設定されていて、初年度は無料でも次年度以降は高額な費用を請求されたり、2年目以降は使い放題といっても初年度に分割払いした総額が100万円近くになっていた、などの話が散見される。

 

「総額がいくらになるか」という点についても、いよいよ契約という段になって明らかになる場合が多く、その段階ではすでに契約手順が進んでしまっていて、断りにくい状況が(意図的に)作られてしまっていることもある。

「月々たったの2万円のクレジット契約ですよ」との話で、まあそれくらいの額なら・・と話を進めた結果、リース期間は5年に設定されていて、総支払額は120万円にも及ぶなど、結局は高額な買い物をしてしまうことになる。

 

 

ホームページ制作ではランニングコストに注意

 

契約時に支払う金額は格安で、魅力的に感じるものもあるが、はじめから追加費用を請求することを目的として、「管理費」「保守費用」「広告費」などの項目が設定されているケースにも注意が必要である。

Webサイト制作等、初期費用は安く設定されているがその後のメンテナンス費用や管理費等の名目で多額の支払いが発生するパターンも多い。

 

企業のホームページは一度制作して終わりではない。

誤字脱字などの修正や、新製品やサービスの追加変更等、状況に合わせて改善していく必要がある。ところがその作業にかかる費用を見てみると、こちらの足元をじっくり見た価格設定となっているのである。

 

ほんの少しの文字修正で数千円、画像1枚の差し替えに数千円、バナー制作にいたっては意味不明なサイズ規定に基づいた万単位の金額設定等、挙げればキリがない。

Webデザイナーからすれば、文字修正などはHTMLの記述を修正するだけであり、画像差替えもHTML上でimgファイルの置き換えのみで、特別な技術が必要なわけでもなく数分~数十分で済むものである。

 

良心的な制作会社であれば絶対に設定しないであろう、いずれも目をむくような金額が設定されていて、後々こうした金額を支払う羽目になる。

たしかに素人からすればWebサイトの中身、HTMLでの記述について、そのしくみや言語について理解する、というのは困難であろう。

しかし現在は「CMS」と呼ばれるコンテンツ管理システムを用いたホームページ制作が可能であり、このCMSによってWebサイト制作を請け負う企業も多い。

 

CMSはユーザがページの追加、修正など運用管理を自由に行えるソフトで、「WordPress」など無料で利用できるものが多い。

ただし、CMSを用いたページ制作を依頼した場合でも、月額料金が設定されている場合は、永続的に支払いが発生するため注意が必要である。

いずれにしてもホームページ制作やSEO対策等については、制作費用のみならず維持管理費といったランニングコストも含め、全体的なコストをしっかり見極めた上で依頼すべきである。

 

 

狙われるのは法律に不慣れな私たち

 

他にも消火器の不当販売等、飲食店や幼稚園、町工場など個人事業主や中小の企業や団体が、クーリング・オフ適用外のため泣き寝入りせざるを得ない事例が多発している。

悪質業者はクーリング・オフ適用外という法律を逆手に取り、法律に不慣れな自営業者や中小企業を狙って営業をかけてくるのである。

 

 

対策

 

このように悪質な業者は、「法律の抜け道を研究し、違法にならない範囲で不当な利益を得る方法を構築した上で、個人事業主や中小企業を狙っている」という事実を、私たちは認識すべきである。

 

悪質な業者は常に新規の法人登記情報をチェックしており、ターゲットになりそうな新規事業者を物色している。

既存の起業であっても、そのWebサイトを入念にチェックする等、企業の全体像を把握した上で、足りない部分があればその提案書を作成して持参する等、ありとあらゆる方法でアプローチしてくるのである。

 

新規事業者の場合、開業当初は事業を軌道に乗せるため、広告も含めた営業施策に追われ、新たな設備も必要となるため、十分に検討する時間が取れずに様々な契約をしてしまいがちである。

そこで提案される内容は、どれも事業者にとって必要なものであるかもしれないが、どのような商品・サービスであっても相見積もりの取得、また初期費用だけでなく継続して発生する費用項目を吟味し、イニシャルコストとランニングコストの総額を算定すべきである。

 

一旦リース契約を結んでしまうと中途解約はできない点や、個人名義のクレジットカードであっても営業目的の契約の場合はクーリング・オフが適用されない点など、十分に注意が必要である。

 

業者を利するためだけの、効果の乏しい、不当に高額な支払い義務を負わされないよう、契約の内容はもとより何年先までの契約であるか、総額および毎年いくら支払う事になるのか、こちらの都合で中途解約ができるのか、については最低限確認しておくべきであろう。

 

 

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