《ガス会社の訪問販売》認知症につけ込む悪質勧誘も

2023年5月16日

2016年の電力自由化に続き2017年にはガスの自由化がはじまり、一般の家庭でも自由に電力会社やガス会社を選べるようになった反面、一部の新規参入企業やその販売店が強引かつ悪質な勧誘を行い、消費者に不利な契約を結ばせる事例が続いています。
※一般家庭向けの都市ガス

今月10日には電力及びガス供給役務を連携共同して行う訪問販売業者3社に対し、消費者庁が特定商取引法違反に基づく6ヶ月の業務停止命令を発出しています。

業務停止命令を受けたのは株式会社CDエナジーダイレクト(東京都中央区日本橋室町)、株式会社3Backs(東京都渋谷区千駄ヶ谷)、株式会社ライフデザイン(東京都渋谷区桜丘町)の3社で、CDエナジーダイレクト社は中部電力と大阪ガスの折半出資により設立された電気・ガスの小売事業者で、販売委託先の3Backs社およびライフデザイン社と連携し、首都圏を中心に訪問販売による役務提供契約の勧誘を行っていました。

      ― CDエナジーダイレクト社のWebサイトより ―


この3社が連携して行っていた違法行為は主に4つあり、勧誘目的を明らかにせずに訪問する「氏名等の明示義務」違反や、消費者が断っても勧誘を続ける「勧誘の継続や再度の勧誘」、および素性を偽り虚偽の説明をする「不実勧誘」、さらに消費者の「判断力の不足に乗じて役務提供契約を締結」させるなどの行為が確認されています。

とくに悪質なのは4つ目の判断力が不足した消費者を狙った手口で、医師からアルツハイマー型認知症と診断され、任意後見監督人が選任されていた方や、同じくアルツハイマー型認知症の診断を受け、要介護1の認定を受けていた方に対して営業をかけ、役務提供契約を締結させていました。


【勧誘の手口】
※以下、消費者庁発表資料より抜粋

〔勧誘目的の不明示〕
「以前あのガスの仕組み変わって、そのお知らせ兼ねてちょっと順番に回らせてもらってたんで
 すけど」
「ガスー料金の提案でお伺いしました」
「ガス料金のご提案でお伺いしてます」
「ガス料金のご提案で今順番にお伺いしています」
「ガス料金のですね、ご提案で順番にお伺いしてました」

このように《ガス料金のご提案》や《順番にお伺いしてる》などと勧誘目的を隠して訪問してくるため、消費者は「自分が契約しているガス会社なのかな」と勘違いしてしまう恐れがあります。

とくに「順番に回っている」という手口は悪質商法の常套手段であり、「このエリアを重点的に回っています」などと周囲も対応しているように錯誤させるのが狙いですので、こういうトークに惑わされてはいけません。

集合住宅などでは「全戸一斉点検中で伺ってます」や「マンション全体で電力プランを一斉に切り替えます」などと言って勧誘してくるケースもあるため注意が必要です。

〔勧誘の継続・再度の勧誘〕
消費者が「契約しているガス会社に直接聞くからいいです」、「うちは大丈夫です」と断っても引き下がらず、しつこく勧誘する事例も確認されています。

「いくら安くなるか、領収書を見て具体的にご説明するとわかりやすいので、持ってきて見せて
 ください」
「どちらに変えてたんですか」
「ガス会社切り替えて安くなりますよってのを、それを知らない方が結構いらっしゃったん
 で・・・」
「一応、あの、料金、ご契約中のプランが分かれば料金下がるかどうか確認できたんです」

このように、なかなか帰ろうとせず、消費者が根負けして契約するまで居座り続けるケースもあるため、こうした場合にははっきりと「もう結構ですので、お帰り下さい」と退去してほしい旨、意思表示する必要があります。

家人の求めに応じず玄関や敷地内に留まる場合は「不退去罪(刑法第130条)」が成立しますので、ただちに110番通報をして警察に助けを求めてください。

〔不実告知〕
「消防署の方から来ました」という懐古的な手口がありますが、これと同様に大手ガス会社の名前を出して、「〇〇ガスから来ました」などと平気で嘘をつく事例も確認されています。

電気やガスの社員であれば身分証明書を見える位置に着用していますので、必ず所属等を確認してください。

【安くなるとは限らない】
電気やガスの訪問販売を行う業者の目的は、現在契約している電気・ガス供給会社から自社サービスへ契約変更させることですので、「これまでよりも料金が下がる」などとメリットを強調して勧誘してきます。

しかし、電気代やガス代のトータル金額を見た場合、年間使用量によってメリットが出る場合と出ない場合があるほか、プランによっては割高になるケースや、提示された料金がほどなく値上げされるリスクもあり、そうした点をしっかり確認し、月々の使用量も含めて検討すべきです。

「うちに乗り換えればゼッタイお得ですよ!」などと言われたとしても、しっかりシミュレーションを行うことが大切で、自分でよくわからなければ家族や詳しい知人に相談するなど、わからないまま契約することだけは絶対に避けてください。

業者によっては「ポイントが貯まる」、「キャンペーン実施中」、「電気とセットでお得」、「キャッシュバックが受けられる」などと良さげな点を猛アピールしているようですが、肝心なのは実際の使用実績に基いて算出された料金が今より安くなるかどうかであり、少なくとも過去1年間の使用量に当てはめて計算してみるなど、契約変更でどれだけ得になるかを把握する必要があります。

【クーリング・オフ制度あり】
訪問販売による契約については、《特定商取引法に定める契約書面》を受け取った日から8日以内であれば無条件で契約解除が可能です(クーリング・オフ制度)。

事業者宛に「契約を解除する」旨を記載したハガキを送るなど書面で契約解除を申し出たり、FAXや電子メール、または事業者のWebサイトに設けられた専用フォーム等を使って申し出ることで、クーリング・オフ通知は有効となります。

最寄りの消費生活センターへ相談すれば通知方法なども教えてくれますし、その後の契約解除や返金についても力になってもらえます。

とくに業者が「もう前のガス会社を解約してるし、違約金も発生する」などと解約を拒もうとしてきた場合など、相談員の方に間に入ってもらえれば安心です。

なお、《特定商取引法に定める契約書面》に虚偽の記載があったり、必要な項目が記載されていないといった不備が確認された場合は書面を受け取ったとは認められず、8日を過ぎてもクーリング・オフ制度が適用されて契約解除できるケースがありますので、契約書類は失くさず保管しておくことが大切です。

【プロパンガス契約は要注意】
都市ガスだけでなく、LPガス(プロパンガス)事業者による悪質な役務提供契約も問題になっており、相場よりも割高な料金で契約させられるケースが全国各地で発生しています。

LPガスの販売事業者は全国で16,381社あり(2022年12月末時点・経済産業省)、その料金体系は事業者ごとに異なります。

LPガスは公共料金とみなされず、料金設定は販売事業者が自由に決めることができるため、業者の言い値で利用料金が設定されているのが実状です。

そのため一部の悪質業者では相場の数倍の料金を請求しているケースもあるほか、都市ガス同様、訪問販売による悪質な勧誘も常態化しています。

都市ガスに比べ、料金設定が自由に行えるのを良い事に、当初は格安で契約させてから、徐々に従量料金を値上げしていくケースや、期間限定の格安料金である事を告げずに契約させる、またガス保安点検を装って警報機の交換で高額請求するなど、LPガス契約に関するトラブルは枚挙にいとまがありません。

【適正価格を知る】
LPガスについては販売事業者ごとに自由な料金設定となっていることや、事業者数が1万6千社以上あること、さらに地域によって相場も異なるなど、一般消費者には適正価格がわかりにくい面があります。

そのため、LPガス業界の中には消費者保護の観点から適正価格でガス供給を行う販売事業者を紹介したり、料金トラブル等の相談、サポートを無料で行う団体が存在します。

主だった団体として3つの一般社団法人があり、それぞれ所属会員(販売事業者)からの会費により運営されており、会員企業からの会費がそのまま紹介料としての性格を持つため、各団体に所属する販売事業者が紹介されることと推察されますが、いずれの団体も基本料金を1,500円~1,600円前後、従量課金(1㎥あたり)300円代を適正価格と位置付けているため、悪質業者と契約してしまうリスクは低減されるものと思われます。

〔LPガスの適正価格販売を推奨する主な団体〕

 ■ 一般社団法人プロパンガス料金消費者協会
  : 優良なプロパンガス会社(全国130社)を紹介。各都道府県の適正価格を明示。

 ■ 一般社団法人プロパンガス料金適正化協会
  : 料金トラブルや違約金等の相談、値下げサポートを行う。会員企業数は不明。

 ■ 一般社団法人プロパンガス消費者協会
  : 料金引き下げの相談やガス会社変更手続きの手伝いを行う。会員企業数は約100社。

これらの団体で紹介される販売事業者も含めて、複数の販売事業者の料金体系を比較することが大切です。

このほか、インターネット上にはLPガスの料金を比較できるサイトがいくつかあり、こうしたサイトの情報も参考になります。

〔LPガス料金の主な比較サイト〕

 ■ enepi (エネピ)
  : LPガス(プロパンガス)の料金比較サイト

 ■ プロパンガス消費者センター
  : 料金比較、適正料金の相談受付等を受け付けるWebサイト

 ■ Selectra(セレクトラ)
  : 生活サービス料金比較サイト(LPガスの料金比較もある)

いずれの団体、Webサイトも利用は無料ですので、気軽に相談したり、必要な情報を収集しておおまかな相場、適正価格を知っておくことが、悪質業者との契約トラブル防止につながります。

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